「すべての人に、価値ある一冊を」屆ける。デジタルシフトする総合出版社

同社は、2008年に株式會社朝日新聞社の出版本部が獨立する形で設立された。朝日新聞社出版本部が発行していた雑誌?書籍をほぼ継承し、日本で最も歴史のある総合週刊誌『週刊朝日』や『AERA』を刊行している。

ニュース?情報サイト『AERA dot.』は、2012年にスタート(當時は『dot.』)。2017年にリニューアルし、今年10月で10周年を迎える?!哼L刊朝日』や『AERA』の記事の転載のほか、オリジナル記事も充実。30代40代の現役世代に向けたサイトとして、教育情報や、新しい視點で社會を捉えるニュースを発信している。
株式會社朝日新聞出版は、2008年、株式會社朝日新聞社の出版本部が獨立する形で設立された出版社。設立前に朝日新聞社出版本部が発行していた雑誌?書籍をほぼそのまま継承している。1922年(大正11年)に創刊された、日本で最も歴史のある総合週刊誌『週刊朝日』や1988年創刊の『AERA』等の雑誌だけでなく、文蕓や新書、実用書、ジュニア向け、マンガといった書籍も刊行するフルラインの出版社として著実に成長を遂げている。
そんな同社は、2020年度、2021年度と、2年連続で過去最高益を更新した。
「出版不況」といわれて久しい中で、同社が順調に成長を遂げてきたポイントは大きく二つある。一つが「多様性」であり、もう一つは「先見の明」があることだ。
同社の出版物は取り扱うジャンルが幅広く、ラインアップに多様性があるのが特長。出版業界は上場企業が少ないこともあり、各社の売上狀況が把握しにくいといわれるが、大手書店の売上高上位を占める出版社を見ていくと、講談社、集英社、小學館といった大手を除くと、他は、経済、教養、児童向けといった特定の分野に強みを持つ出版社が多い。
「當社の社員數は210名ほどですが、會社の規模の割に競合出版社の中で最もフルラインでやっています。どこかの分野に偏っていないのが特長だと考えています」(代表取締役社長 市村友一氏)。
しなやかにフルラインをカバーし、出版社として強い「足腰」を持っている同社。最近では、『ゲッターズ飯田の五星三心占い2021』が166萬部超えのベストセラーとなり、2019年には、今村夏子氏の『むらさきのスカートの女』が第161回芥川賞を受賞している。
昔から、新しいことに取り組む社風があり、多様な人材が揃っていることが同社の「先見の明」に繋がっている。出版本部時代に遡ると、パソコン時代の到來をいち早く見抜き、1988年には初心者向けパソコン誌『ASAHIパソコン』を創刊。競合他社からベンチマークとされるほどヒットした。
「やりたいといえば、やらせる社風は引き継がれています。ただ、新聞社時代はビジネスとしてグロースさせるのが得意ではない面もありました」(市村氏)。
同社は、今後、多様性と先見の明を武器にデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを加速し、さらなる成長を目指す。カギとなるのは、デジタル領域の「グロース力」を高めていくことにある。
グロースのカギはデジタル化とIPビジネスが融合した「DXIP」にある

出版不況下にあっても、2022年3月期決算では営業利益、稅引前利益とも過去最高益を達成する等、順調に成長を遂げている。

今後はニュース?情報サイト『AERA dot.』を核にデジタルトランスフォーメーションを推進し、IP(ライツ)ビジネスを発展させるべく、デジタル體制を強化中である。
社會のデジタル化、WEB化が進み、新聞社は社會構造的に厳しい立場にあるといわれている。同様に出版社も、冒頭でも述べたような出版不況もあり、雑誌市場は縮小している。しかし、この狀況においても多様性と先見の明を持って成長を遂げている朝日新聞出版。さらなる成長のカギは「デジタルシフト」の波に乗ることだ。
現在、ニュース?情報サイト『AERA dot.』を展開する同社は、今後、さらにデジタル領域を強化する。デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進すると共に、コンテンツの映畫化、イベント化、海外展開といったIPビジネス(ライツビジネス)を育てる狙いもある。同社では、これを「DX」と「IP」を繋げて「DXIP(ディクジップ)」と命名?!癉XIP”は、同社の今後の方向性を示すキーワードだ。
「DXIPが柱です。他の出版社でもデジタル分野が紙分野より売上を伸ばしています。ただ、デジタルとライツといった観點でいうと、“紙かデジタルか”ではなく、多様な形で展開できる強いコンテンツを持つことが大事だと考えています。ここを開拓します」(市村氏)。
ここでいう「コンテンツ」が持つ意味は広い。文蕓やマンガといった內容だけでなく、例えばニュースを「どうやって見せるか」といったUX/UIの視點も含まれるからだ。
「ポイントはどれだけ良いコンテンツを作り、きちんと屆けられるかです。その意味で、ただサイトを見てもらうだけでは、私達の成長はあり得ません。これまではページビューに依存していましたが、今後はロイヤルカスタマーを摑むことを大事にしたいと考えています」(市村氏)。
唯一無二のコンテンツを作ることは大前提だが、もはや、強いコンテンツを作れば勝てるというコンテンツ至上主義の時代ではない。読者に「読んで良かった」「ためになった」「なるほど」と思ってもらえるUX/UI環境の構築も重要になっている。これは「すべての人に、価値ある一冊を」という同社のスローガンにも通じる考え方。これがロイヤルカスタマーの獲得に繋がる基本であると同社は考えている。
「コンテンツをどうロイヤルカスタマーに屆けるか」までケアしながら、『AERA dot.』等の各Webサイトをグロースさせるのが、今後の朝日新聞出版のDXIPを核にしたデジタルシフトの基本戦略である。
週刊誌とニュースサイトの編集長は全て女性。子育てママも活躍中

同社は、部長クラスを含めて全體的に女性が多く、さらには週刊誌編集長、ニュースサイト編集長は全て女性。なおかつ子育て中の女性社員も多く、保育園の送り迎えに合わせた勤務も可能だ。

エンジニア(理系)とエディター?記者(文系)の言葉をどちらも理解し、新しい文化を創造する意欲を仲間と共有できる、いわばDXIPの推進力となる人材を求めている。
朝日新聞出版の社內の雰囲気は穏やかだ。人事的な特徴からみると、部長クラスを含めて全體的に女性が多く、さらには週刊誌編集長、ニュースサイト編集長は全て女性。なおかつ子育て中の女性社員も多く、保育園の送り迎えに合わせた勤務も可能と、女性の活躍が目立つ。
職場環境の面では、作業に集中したい時はリモートワークも可能でフレキシブルな働き方ができる。出版社の特性として一人で擔う仕事も多いが、かといって、自分の世界に引きこもっていいわけではない。同社では仲間の繋がりも仕事の一部として大切にしている。
「メンバーが一緒になり、一つのものを作り上げていくことを重視しています。同じ場にいる仲間の狀況を見ながら、コミュニケーションや緩い“間”を大切にしたいですね」(AERA dot.編集部 編集長 鎌田倫子氏)。
『AERA dot.』編集部の場合、『週刊朝日』『AERA』といった週刊誌と関係が深いサイトのため、雑誌の発売日には作業量が増える傾向はあるというが、働きやすさの面は全社共通だという。また、2008年の設立以來の特徴として、中途入社の比率が高いことが挙げられる??形铯违譬`マが幅広いこと等もあり、キャリアにも多様性があるようだ。
「バックボーンが異なる人達とも一緒にやっていくことになるので、話す“言語”や感覚が異なることがあります。お互いどこが違うのかを意識して隙間を埋められる、歩み寄れる方が當社に向いていると思います」(鎌田氏)。
今後、リアルとデジタルを融合させた「DXIP」を推進していくに當たり、先行者がほぼいない道なき道を進む同社。エンジニア(理系)とエディター?記者(文系)の言葉をどちらも理解し、新しい文化を創造する意欲を仲間と共有できる、いわばDXIPの推進力となる人材を求めている。
「DXIPを一緒にやりましょう!ある意味、何でもできるのが當社です。まず、オンラインメディアの改革から始めてもらうことになると思いますが、活躍の場はそれだけではありません。朝日新聞出版がやったら面白いと思うアイデアをどんどん出してもらい、新しいビジネスを創造してイノベーションを起こしましょう」(市村氏)。
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